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私たちとアボリジナルアートとの出会い

日本ではすでに自給自足の生活をしていた私たち。

皆既日食 という宇宙の一大イベントを体感するために、田んぼや畑をお休みして

2012年、私たちはオーストラリアへ渡りました。

太陽と月が重なるそのスペクタクルで強烈な体験は、鮮明に刻みこまれました。

ここから導かれるように旅がはじまります。

この時私たちは、オーストラリアに1年滞在することになっていたのですが

この旅で唯一決めていたこと、それは

最終目的地は ウルルに行こう。

それだけでした。

この広大なオーストラリアを気の向くままに、

行きたいところ、見たいもの、やりたいこと、ぜんぶ。 自由に生きよう!と

旅人が乗っていた古いジープのチェロキーに一目惚れ なけなしのお金で手に入れて。

チェロ子と名付けたその相棒とともに私たちの長いロードトリップ珍道中を進んでいきます。

日々いろいろな出来事にカルチャーショックを受けながら

自分たちの知見を広げていけることは旅の醍醐味です。

これだけ広い国なので、その土地土地で風土も文化もいろいろと異なることにも興味もあり

移動を続けながら その場所にある美術館やギャラリー、図書館に必ず立ち寄っていました。

オーストラリアの文化はもともとやまちがディジュリドゥ(オーストラリア先住民の楽器)を演奏するするのが

好きだったので なんとなく先住民族アボリジナルのことは、知ってはいる 程度で

アボリジナルアートについても 点描画 くらいしか知識はありませんでした。

いろいろな場所で作品を目にしていく中でその種類の多さや作風の違いにとても驚いたのと

その中でも自分たちが強く心惹かれる作品があり

それらの作品たちは偶然にも同じアーティストが描いていたり、

同じ地域から生まれている などたくさんの発見がありました。

その地域とは 中央砂漠 アリススプリングス周辺エリアで

まさにこの旅の最終目的地 ウルル 近郊のものだったのです。

楽しみは増しながらも近づく旅の終わり。

旅の中で少しずつ 自然と知っていったアボリジナルの文化や歴史。

彼らの聖地である ウルルを目の前にした時その荘厳さ 偉大さに 圧倒され

この旅のはじまりに刻まれた記憶 おおきな自然の力、無限のエネルギーが重なったようでした。

時間の感覚もわからなくなるような とても不思議な気持ちに ただただ大地の風を全身で感じていました。

ちょうどこの時期は 夏の始まりの頃で、日増しに日差しも気温も厳しくなってきたところだったので

高まった気持ちを胸に、長旅で疲れたからだをクールダウンしようと街を目指しアリススプリングスへ向かいます。

はじめての中央砂漠の小さな街 アリススプリングス。

今まで見てきた街と全く異なる雰囲気にびっくり!

迫力あるアボリジナルたちが何をするでもなく集団でかたまっているのです。

それも何グループもいて なぜかちょっと怖くなっている自分もいました・・笑

到着した初日ということもあり、疲れていたし暑いし、屋根を求めてまずは図書館に向かった私たち。

今思い返せば ありえないことですが、図書館の駐車場に車を停めて 

図書館には入らず、まずは腹ごしらえということで

空いていた隣の駐車スペースでコンロを出してカレーを温めていました。

すると、1台の車がやってきて 「こんなところで何をしてる?!」と

オージー(オーストラリア人)にびっくりされてしまい。

私たちの旅の経緯を話したら「じゃあ今夜はどこで寝るわけ?」と。

もちろん決まっていなかったし、いつもテントを張ったり車中泊したりしていたのでそれを伝えると

「この辺りは他の地域と違ってちょっと危ないから、泊まるところがないのだったらうちへおいで」と言ってくれたのです。

かわいい赤ちゃんを抱いたお母さんと、たくましそうなお父さん

他にも2人の小学生の子どもがいる家族という安心感もあってその晩にお家を訪ねました。

お宅にはその家族以外にも大人や子供が何人かいて、その人たちはアボリジナルの人たちだったのです。

聞くところ そのオージー家族は

家庭環境に問題のあるアボリジナルの子どもたちや アボリジナルの人たちを支援する活動をされていました。

とても信頼されているようで いろいろなアボリジナルたちがこのお宅を訪ねてきたりしていたのです。

驚くことに庭で自由にキャンパスを広げて絵を描いている人たちもいました。

見てみると 今まで美術館やギャラリーで観てきた作品を描く人がいるではないですか!

名前を聞くと なんとその人たちは自分たちが旅で覚えた憧れのアーティストだったのです。

これにはびっくり驚きました。

この時がアボリジナルアーティストとのはじめての接触でした。

今まさに目の前で描いている しかも何か唄をうたいながら描く その光景に

あのウルルで体感した不思議な感覚と、この旅で知ったドリームタイム という概念がピタリとひとつになった気がしました。完成した作品には彼らのエネルギーがそのままおとされているようでとてもパワフルな力を感じられるのです。

そこでしばらくお世話になりながら アーティストたちと寝食をともにし

アート制作のお手伝いをしながら 彼らの物語を教えてもらったり。

 

風土は違えど 季節ごとの野草や木の実、

時には野生のお肉や副産物で作る もの作りなど

日本の里山で自給自足の暮しを送ってきた私たちにとって

彼らの自然との繋がりや暮らし方にとても共感を覚えていたので

互いに通じ合った瞬間はとても嬉しかったです。

アーティストたちはみんな、仲良くなると とってもお茶目でやさしくて私たちはたちまち彼らのファンに!

そんな夢のような時間を過ごし ますますアボリジナルアートの世界にひきこまれていきました。

また、オーストラリアの家族からもアボリジナルや アートの歴史や背景、現状など

知らなかったこともたくさん教えてもらったり 本当に素晴らしい経験をさせてもらいました。

まさか旅の最後の最後にこんなことになるなんて思いもせず

日本に帰ったら また自給自足の暮らしをしながら、

この旅で経験してきたことをどう活かせるのかな とわくわくしていました

そんな話を彼らとしていると、作品を日本へのお土産にしたら?と言ってくれたのです。

しかし私たちは 旅の最後でほとんどお金も持っていませんでした。

おみやげ物やペインターの方が描いたものと違って 有名アーティストが描いた作品は私たちにとってとても高価です。

もちろんその価値は充分にあることは理解していたし、目の前で描いてくれた素晴らしい作品です。

余裕があるのであればもちろん手にするでしょう。

何か方法はないかな?と考えた時に

この1年、旅をともにした相棒 チェロ子が浮かびました。

日本へ連れて帰ることはできないし、最後はどこかの旅人に譲ることになりそうだなと思っていました。

アリススプリングスは車の台数も少なく、4WDが人気で高価な為 喜ばれることが多いのです。

もし、もーし良ければ タフなこの子と交換はどうだろう?と聞いてみました。

すると 長老アーティストは快くOK!

むしろ やったー!ととても喜んでくれたのです。家族にプレゼントするよと。

なんだか嬉しい循環を感じることができ、作品とチェロ子を物々交換。

こうしてミラクルな​ご縁で はじめてのアボリジナルアートは 私たちのもとへやってきてくれました。

皆既日食から始まった旅はアボリジナルアートの旅となって今に続いています。

農閑期が来るとキャンバスとわずかなペイントを持って私たちは砂漠のアーティストに会いに行くのです。

行き来を続けるうちに親交も深まり アーティストの家族や親族のアーティストと繋がりも広がっていきました。

まっさらなキャンバスにおとされる彼らのエネルギー、

ドリーミングには作者のエネルギーが宿ります。

 

どんなアーティストが、どんな状況で、どんな気持ちで描いたのか。

私たちは そこを大切にしています。

制作に立ち会わせてもらうのも そういった部分を知りたいから。

私たちが紹介するアボリジナルアートはこうして集まってきたものたちになります。

 

ドリーミングを眺めていると なんだか頭が空っぽになってスペースがうまれるような感覚があります。

インスピレーションが湧いたり、気持ちがスッキリしたり、癒され元気になったり。

それは観る人によって様々で、きっと本質的な何かを作品から感じとることができるからなのではないかと思います。

5万年以上もの長い時を自然と共存し繁栄してきたアボリジナル。

そして 新しい時代を迎える今こそ、

アボリジナルアートを通し 彼らのドリームタイムに触れることで

あるべき姿を見通すことができるのではないでしょうか。

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